禁煙パッチで叶えた健康な妊活 - 中村花子の禁煙ストーリー
禁煙を決めたのは、不妊治療のクリニックの待合室でした。壁に貼られた「喫煙は妊娠率を著しく低下させます」というポスターを見つめながら、自分が何をしているのか、やっと気づいたのです。
私は中村花子、35歳。福岡市中央区の天神にある広告代理店でコピーライターとして働いています。夫の太一と結婚して3年。そろそろ子どもが欲しいと思い始めた頃でした。
タバコを吸い始めたのは大学1年の秋、23歳のときです。美術大学でデザインを学んでいた私は、制作の合間にタバコを吸う先輩たちの姿に憧れていました。「クリエイティブな人はタバコを吸うものだ」という、今思えばばかげた思い込み。最初はピアニッシモのメンソール。細くて上品なそのタバコは、当時の私の「おしゃれなクリエイター」というセルフイメージにぴったりでした。
広告代理店に就職してからは、タバコの本数が増えていきました。締め切りに追われる日々。クライアントの修正依頼。コンペのプレッシャー。タバコは創作の儀式であり、ストレス発散であり、思考を整理するためのツールでした。新しいコピーが浮かばないとき、タバコに火をつけて煙を眺めていると、ふとアイデアが降りてくる気がしたのです。1日に15本くらい。多い日は1箱以上吸っていました。
夫の太一はタバコを吸いません。付き合い始めた頃から「やめた方がいいよ」と言われていましたが、「仕事に必要やけん」と言い返していました。結婚してからも、ベランダでこっそり吸い続けていました。「こっそり」と言っても、匂いでバレバレでしたが。
妊活を始めたのは33歳のとき。最初は自然に任せていましたが、半年経っても授かりません。婦人科で検査を受けたところ、特に大きな問題はないと言われました。でも、先生にこう聞かれたのです。「タバコは吸いますか?」
正直に「はい」と答えると、先生の表情が厳しくなりました。「喫煙は卵子の質を低下させ、着床率を下げ、流産のリスクを高めます。本気で妊娠を望むなら、禁煙は必須条件です。」
頭ではわかっていました。でも、すぐにはやめられませんでした。仕事のストレスを理由に、「もう少しだけ」と先延ばしにしていました。その間にも月日は流れ、34歳になり、不妊治療のクリニックに通い始めました。
あの待合室のポスターを見た日、隣に座っていた女性がお腹をさすりながら幸せそうに微笑んでいました。その姿を見て、涙がこぼれそうになりました。私もあんなふうに、お腹の中の命を感じたい。タバコのために、その夢を遠ざけているのは私自身だ。
その日の帰り道、天神のドラッグストアでニコレットクリアパッチを購入しました。禁煙パッチです。薬剤師さんが丁寧に使い方を説明してくれました。まずはステップ1(大きいサイズ)を6週間、次にステップ2(中サイズ)を2週間、最後にステップ3(小サイズ)を2週間。計10週間のプログラムです。
禁煙初日、腕にパッチを貼って出勤しました。午前中は意外と平気でした。パッチからニコチンが少しずつ供給されているおかげで、急激な離脱症状は抑えられていました。でも、午後の企画会議の後、アイデアが行き詰まったとき、無意識にタバコの箱を探している自分がいました。もう捨てたのに。
最初の1週間で一番つらかったのは、「タバコなしで良いコピーが書けるのか」という不安でした。12年間、タバコと一緒にクリエイティブな仕事をしてきた私にとって、タバコは思考のパートナーでした。それを失って、仕事の質が落ちるのではないか。この恐怖は本当に大きかったです。
でも、結論から言うと、杞憂でした。タバコなしでも、コピーは書けます。むしろ、禁煙して2週間ほど経った頃から、頭がクリアになった気がしました。以前はタバコを吸うために何度も席を立っていた時間が、今はそのまま仕事に使える。集中力が持続する時間が長くなった。同僚に「最近、花子さんのコピー冴えてない?」と言われたときは嬉しかったです。
禁煙中、いくつかの工夫をしました。
一つ目は、お気に入りのハーブティーを見つけたこと。タバコを吸いたくなったら、カモミールティーを淹れるようにしました。お湯を沸かして、ティーバッグを入れて、蒸らす時間を待つ。この一連の動作が、タバコに火をつけて吸うという儀式の代わりになりました。
二つ目は、散歩です。オフィスが天神のど真ん中にあるので、昼休みにタバコを吸う代わりに、大濠公園まで歩くようにしました。片道15分。往復30分の散歩が、気分転換になりました。緑の中を歩いていると、タバコのことを忘れられました。
三つ目は、夫への禁煙宣言です。太一に「今度こそ本気でやめる。応援してほしい」と伝えました。太一は「もちろん」と言って、その日から毎晩、「今日も禁煙続いてるね、すごいよ」と声をかけてくれるようになりました。彼の穏やかな応援が、どれだけ心の支えになったか。
壁はいくつもありました。職場の飲み会は最大の試練でした。博多の中洲や天神の居酒屋で、同僚たちが吸っている中で我慢する。特にもつ鍋を食べながらビールを飲んでいるとき、タバコへの渇望が最高潮に達しました。そんなとき、スマホに入れていた赤ちゃんの画像アプリを開きます。いつか自分の子どもをこの腕に抱くために、今は我慢する。その思いが、私を踏みとどまらせました。
禁煙パッチのステップを順調に進め、10週間のプログラムを完了しました。パッチを外した後の最初の数日は少し不安でしたが、もう体がニコチンなしの状態に慣れていました。
禁煙から3ヶ月後、不妊治療のクリニックで嬉しい変化がありました。卵子の状態が改善しているとの報告。先生に「禁煙の効果が出ていますね」と言われたとき、禁煙してよかったと心から思いました。
そして禁煙から8ヶ月後、ついに妊娠が判明しました。
あの日の朝、妊娠検査薬の二本線を見たとき、手が震えました。太一に報告すると、彼も泣いていました。電話で母に伝えると、博多弁丸出しで「ほんとね!よかったねー!」と叫んでいました。
禁煙していなかったら、この命に出会えなかったかもしれない。そう思うと、12年間吸い続けたことへの後悔と、やめる決断ができたことへの感謝が同時に押し寄せてきました。
今、妊娠7ヶ月。お腹の中で元気に動き回る赤ちゃんを感じるたびに、タバコと決別した自分を褒めてあげたくなります。
禁煙は、自分だけでなく、まだ見ぬ未来の家族のためでもありました。
体の変化も嬉しいものばかりです。肌のくすみが取れて、ファンデーションの色を一段明るいものに変えました。髪にツヤが出てきたと美容師さんに言われました。階段を上がっても息切れしなくなりました。食事が美味しくなり、博多ラーメンの豚骨スープの深みをこれまで以上に感じられるようになりました。
経済的にも、1日1箱500円として月に15,000円、年間18万円の節約。そのお金は、ベビー用品の購入に充てています。ベビーベッド、チャイルドシート、ベビーカー。タバコに費やしていたお金が、赤ちゃんのための準備に変わっていく。その喜びは何物にも代えられません。
同じように妊活中で、まだタバコをやめられていない方へ。「いつかやめよう」の「いつか」は、今日です。禁煙パッチという強い味方があります。ドラッグストアで手軽に購入でき、医師の処方箋は不要です。一人で悩まないで、薬剤師さんに相談してみてください。
私のお腹の中で、新しい命が育っています。タバコのない、きれいな空気の中で。それが、禁煙がくれた最高のご褒美です。